担当:まるやま
アパートやマンションの大規模修繕を計画する際に、意外と見落とされがちなのが「アスベストの有無」です。
築年数の古い建物ほど、当時の建材にアスベストが使用されている可能性が高く、もし気づかずに工事を進めてしまうと、作業者や居住者の健康リスクだけではなく、工事中断や法令違反につながる恐れもあります。
そのため、アパートやマンションの大規模修繕工事では、事前にアスベストの有無を確認する調査が非常に重要になります。
このページでは、アスベストとは何かという基本的な知識から、調査の方法、除去の対応策、活用できる補助制度まで初めての方でもわかりやすいよう詳しく解説いたします。
アスベスト(石綿)は、かつて建材によく使われていた天然の繊維状鉱物です。
耐熱性や断熱性、耐久性、音を防ぐ効果などに優れているため、建物の天井材や壁材、保温材、スレート屋根など様々な場所で活用されてきました。
しかし、その細かい繊維が空気中に飛散し、それを吸い込んでしまうことで重い病気を引き起こすリスクがあると分かり、現在では製造・輸入・使用が禁止されています。
アスベストの一番の怖さは、吸い込んでしまってもすぐには症状が出ないことです。吸入された繊維は肺の奥にとどまり、何十年も経ってから健康に影響を与えることがあります。
特に改修工事では、古い建材を傷つけたり壊したりすることで、目に見えないほど細かい繊維が空気中に舞ってしまう可能性があるため、慎重な調査と対策が必要です。
| 病名 | 標準的な潜伏期間 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 石綿肺 | 15~20年程度 | 初期:軽い息切れ、せき、喘鳴(ぜんめい)、運動能力の低下など 進行した場合:重い息切れ、呼吸困難、肺性心(右心不全)など |
| 原発性肺がん | 15~40年程度 | 咳、痰、血痰、息切れ、胸の痛み、声のかすれ、発熱、食欲不振、体重減少、全身倦怠感など |
| 悪性中皮腫 | 20~50年程度 | 胸の痛み、咳せき、大量の胸水による呼吸困難や胸部圧迫感など |
| びまん性胸膜肥厚 | 30~40年程度 | 息切れ、呼吸困難、反復性の胸の痛み、胸部圧迫感、まれに発熱、体重減少など |
| 良性石綿胸水 | 約40年程度 | 胸の痛み、呼吸困難、咳、発熱、全身の倦怠感、無症状な場合が多い |
〈 参考:厚生労働省|アスベスト(石綿)に関するQ&A 〉
〈 参考:独立行政法人 環境安全保全機構|アスベスト(石綿)とは? 〉
アスベストは、その優れた特性から「魔法の鉱物」と呼ばれ、長年にわたり建材をはじめとする様々な製品に広く使われてきました。
しかし、その健康リスクが明らかになるにつれて、少しずつ規制が強化され、現在では全面的に使用が禁止されています。以下に、その主な流れをご紹介します。
この年、日本で初めてアスベストに関する規制が導入されました。
中でも、建物の天井や柱などに使われていた「吹き付けアスベスト」は、発じん性が高く健康のリスクが大きいとされたため、石綿の含有率が5%を超える場合には使用が禁止されました。
次に行われた大きな規制強化は、発がん性が特に高いとされるアモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)に対するものでした。
1995年には、これら2種のアスベストについての製造・輸入・使用が全面的に禁止となり、さらに同年、アスベスト含有率が1%を超える吹き付け作業も禁止となりました。
これによって、作業中の飛散による健康被害を未然に防ぐための対策が一層強化されることとなりました。
2004年10月には、アスベストを1%以上含む建材など10品目について、製造・輸入・使用が禁止されました。
この中には、当時最も広く使用されていたクリソタイル(白石綿)を含む建材も含まれており、主要な3種類すべてのアスベストの新規使用がほぼ不可能となる大きな節目となりました。
2006年9月には、アスベストを0.1%以上含むすべての製品について、製造・輸入・使用が原則として全面禁止されました。
この規制により、「ほんの少しなら使っても大丈夫」という考えは通用しなくなり、アスベストの使用を原則として完全に断つ方向へと大きく進むことになります。
なお、一部の製品については当時、代替品の確保や生産体制の移行に時間を要するなどを理由に、一定期間の猶予措置が設けられました。
2012年には、アスベストに関する規制の最終段階として、すべてのアスベスト含有建材の使用が全面的に禁止されました。
これまで、一部の製品について認められていた猶予措置もこの時点で撤廃され、アスベストを0.1%でも含むすべての建材や製品の新規使用が法律上完全に認められなくなりました。
このように、アスベストに関する規制は30年以上かけて段階的に強化されてきました。そのため、特に2006年以前に建てられたアパートやマンションには、アスベスト含有建材が使用されている可能性があります。
改修や修繕を検討する際には、まずは建築年や建材の種類を確認し、必要に応じて専門業者によるアスベスト調査を行うことが大切です。
アスベストが使われている建材は、その飛散のしやすさ(発じん性)によって3つのレベルに分類されます。
これは、除去や改修工事の際に必要な安全対策や届出の有無を判断する重要な基準です。
ここからは、各レベルの特徴と注意点について順番にご紹介します。
レベル1に分類されるのは、アスベストが最も飛散しやすく、厳重な管理が求められる建材です。
主な建材は、石綿含有の吹き付け材で、建耐火建築物の梁や柱、エレベータ周辺、機械室やボイラー室の天井・壁などに多く使用されてきました。
吹き付け材は、表面が露出していることが多く、わずかな振動や空気の流れでも繊維が空中に飛散しやすいという性質があります。
そのため、除去や改修を行う際には、健康被害を防ぐために以下のような徹底した安全対策が必要になります。
・解体前に綿状アスベスト部分を除去
・集塵装置を使用し、アスベスト粉じんの飛散を防止
・薬液で固める「封じ込め」や板材で覆う「囲い込み」での飛散防止
・作業員は防じんマスクや保護衣(完全密閉型など)、手袋、保護メガネなどを着用
・石綿作業主任者を選任し、作業全体の監督を行う
レベル2に分類されるのは、石綿含有の保温材や耐火被覆材、断熱材などの建材です。
飛散のリスクはレベル1ほどではないものの、アスベストの密度が低く軽いものが多いため、崩れてしまうと粉じんが大量に飛散する恐れがあります。そのため、撤去作業ではレベル1と同様に慎重な作業が求められます
主な使用箇所は、ボイラー本体や配管、空調ダクト、建物の梁や柱周りなどで、内部にアスベストが含まれているものが多く、外見からでは判断しづらいケースも少なくありません。
除去や改修を行う際には、以下のような安全対策が必要です。
・薬液で固める「封じ込め」や板材で覆う「囲い込み」での飛散防止
・集塵装置を使用し、アスベスト粉じんの飛散を防止
・作業員は防じんマスクや保護衣、手袋、保護メガネなどの着用(レベル1より簡易なものでも対応可能)
・石綿作業主任者を選任し、作業全体の監督を行う
レベル2の建材も、取り扱いを誤れば健康リスクにつながる恐れがあります。そのため、工事の前には必ず調査調査を行い、専門業者による適切な対応を検討する必要があります。
レベル3に分類されるのは、アスベストを含んでいても飛散のリスクが比較的低い建材です。主な建材としては、屋根材や外壁材、内装材で、建物の屋根や外壁、天井、床などの幅広い範囲で使用されていました。
アスベスト繊維がセメントなどの素材にしっかりと固められているため、日常的な使用ではリスクは限定的とされています。ただし、劣化や破損、加工によって粉じんが発生する可能性があるため、工事の際には注意が必要です。
除去や改修などの作業を行う際の、基本的な対応は以下の通りです。
・基本的にやむを得ない場合を除き、建材を破砕せずにそのまま取り外す
・穴あけや切断を行う箇所には、水や薬品を散布して湿潤化し、粉じんの飛散を抑える
・作業員は簡易的な防じんマスクや保護具で対応可能ですが、安全に作業できるよう十分な配慮が必要
レベル3の建材は、比較的リスクが低いとはいえ、劣化や破損によって危険性が高まることもあるため、定期的な確認と適切な判断が重要です。
アスベストを含む建材と知らずに壊したり削ったりしてしまうと、粉じんが空気中に飛散し、健康被害につながる恐れがあるため、大規模修繕工事では、工事の対象箇所にアスベストが使用されていないかを事前に確認する必要があります。
特に、2006年以前に建てられた建物には、アスベスト含有建材が使用されている可能性が高く、修繕工事前の調査は欠かせません。
また、2022年の法改正により、一定規模以上の建築物や工事内容に該当する場合には、「事前調査結果の報告」が義務化されました。事前調査の結果は労働基準監督署、および地方公共団体に電子システムで報告する必要があります。
アスベスト調査は、単なる確認作業ではなく、使用の有無、含まれている建材の種類や場所、リスクの程度、必要な対策を把握するための大切なプロセスです。
工事の安全性やスケジュール、予算にも大きく関わるため、計画初期段階でしっかりと実施することが大切です。
アスベストが使用されているかどうかは、目視だけでは判断できないケースがほとんどです。そのため、調査は以下の3つのステップを基本に、慎重に進めていく必要があります。
書面調査では、過去の設計図書や施工記録などからアスベスト含有の建材が使用された可能性があるかを確認します。
特に、1970年~2000年代に建てられた建物では、吹き付け材や保温材、スレート材などにアスベストが使用されていたケースが多く、建築年や使用された建材の種類を把握することが大きな手掛かりになります。
ただし、古い建物ではこうした資料が残っていない、または記録が不十分なことも多いため、書類調査だけで判断を下すのは難しい場合がほとんどです。
目視調査では、専門の調査員が建物に赴き、現場の状況を直接確認します。この調査では、建材の種類や設置状況、劣化の具合などを確認し、アスベストが含まれている可能性のある箇所を目で見て特定していきます。
ただし、アスベスト含有建材は見た目では判別がつかないものが多く、目視だけで確定できるケースは限られます。そのため、より正確な判断を行うために目視調査とあわせて、分析調査を併用するケースが一般的です。
一方で、書類調査と目視調査の結果からアスベストが使用されていないことが明らかとなった場合には、分析調査を省略できることもあります。
分析調査では、目視調査でアスベストの疑いがあると判断された箇所からサンプルを採取し、専門の検査機関で成分の詳細な分析を行います。
採取作業では、作業箇所を湿らせて粉じんの飛散を防いだり、養生シートで周囲を保護したりするなど、安全対策を講じたうえで、建材の一部を慎重に切り取ります。作業員には、防じんマスクや保護具の着用も義務付けられています。
採取されたサンプルは、法令で定められた「JIS A 1481(建材製品のアスベスト含有率測定法)」に基づき、アスベストが0.1%(重量比)を超えて含まれているかどうかを分析します。
この分析によって、アスベストの含有が確認された場合には、必要に応じてさらに詳しい含有率の測定が行われることもあります。
調査がすべて完了すると、調査機関から正式な分析結果報告書が発行されます。この報告書は、労働基準監督署や自治体への届出や今後の工事計画や安全対策を進めるうえでも重要な基礎資料となります。
アスベストの含有が認められた場合には、建材の種類や使用状況、劣化の程度、周囲の環境などを総合的に判断し、適切な工法で対応する必要があります。主な工法は以下の通りです。
除去工法とは、アスベストを含む建材を物理的にすべて撤去し、新しく安全な建材に交換する方法です。アスベストを完全に除去することで、将来的な健康リスクや維持管理上の不安を取り除けるというのが大きな特徴です。
ただし、作業中のアスベスト繊維の飛散リスクが高いため、作業環境の隔離や湿潤化、集じん装置の設置、作業員の保護装備の徹底など、厳重な安全対策が求められます。
また、撤去した建材は「特別管理産業廃棄物」として法令に従い処分する必要があるため、他の工法と比べて工期が長く、費用が高くなる傾向があります。
封じ込め工法は、アスベストを除去せずにそのまま残した状態で、表面に専用の薬剤やコーティング材を塗布し、繊維の飛散を防ぐ方法で、特に煙突のような平坦ではない複雑な形状の箇所や除去作業が困難な場所に適しています。
また、建材を取り外さずに作業が行えるため、工期が短く、費用も抑えやすいという点が大きなメリットと言えるでしょう。居住中の建物や作業スペースが限られる場所でも実施しやすく、状況に応じた柔軟な対応が可能です。
ただし、アスベストは建材内に残ったままとなるため、将来的に再処理や除去が必要になる可能性があるため、長期的な維持管理の面で負担が残るというデメリットもあります。
囲い込み工法は、アスベストを含む建材を撤去せずに、板やシート状の非アスベスト材で上から覆い、繊維の飛散を防ぐ方法で、主に天井や梁など、人が直接触れる機会の少ない箇所やアスベストが露出している部分に対して用いられます。
この工法の大きなメリットとしては、比較的短期間かつ低コストで対応できることに加え、施工中の飛散リスクが低く、居住中でも作業がしやすいという点が挙げられます。
ただし、封じ込め工法と同様にアスベストそのものは建材内に残ったままとなるため、将来の改修や解体時には再度、適切な処理が必要となります。また、封じ込めた状態を維持するには、定期的な点検や劣化の防止といった継続的な管理も欠かせません。
アスベストの除去費用は、建材の種類や使用箇所、施工規模、飛散性のレベル(1〜3)などによって大きく異なります。
その中でも、飛散性が高いレベル1の吹き付け材や、作業環境の隔離が必要な室内作業では、安全対策にかかるコストが加算されるため、全体的なコストが高くなる傾向があります。
国土交通省のホームページでは、以下のような費用が一般的な目安として示されています。
| アスベスト処理面積 | 除去費用 |
|---|---|
| 300㎡以下 | 2.0万円/㎡~8.5万円/㎡ |
| 300~1,000㎡以下 | 1.5万円/㎡~4.5万円/㎡ |
| 1,000㎡以上 | 1.0万円/㎡~3.0万円/㎡ |
※アスベスト対策Q&A参照
これらの金額はあくまでも参考の目安であり、実際の費用は建物の構造や使用されている建材の状態、現場の環境、工法の選択などによって異なります。
そのため、工事を検討される際には、まずは専門業者による現地調査を受けて、見積もりを取ることが大切です。複数の業者に相談して比較することで、信頼できる業者や適正価格を見極める手がかりにもなります。
大切な工事だからこそ、焦らずじっくりと検討を進めていきましょう。
アスベストの調査や除去には一定の費用がかかりますが、国や地方自治体では、民間建築物を対象とした補助制度が用意されている場合があります。
ここでは、国の補助制度と一部自治体の例を紹介します。
国土交通省では、「調査」と「除去等の工事」それぞれに対して、以下のような補助制度を設けています。
【アスベスト調査に対する補助】
| 補助対象となるアスベスト(石綿) | 吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウール |
|---|---|
| 対象となる建築物 | 吹付けアスベスト等が施工されているおそれのある住宅・建築物 |
| 補助内容 | 吹付け建材中のアスベストの有無を調べるための調査に要する費用 |
| 国の補助額 | 原則として25万円/棟(地方公共団体を経由) |
【アスベスト除去工事に対する補助】
| 補助対象となるアスベスト(石綿) | 吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウール |
|---|---|
| 対象となる建築物 | 吹付けアスベスト等が施工されているおそれのある住宅・建築物 |
| 補助内容 | 対象建築物の所有者等が行う吹付けアスベスト等の除去、封じ込めまたは囲い込みに要する費用(建築物の解体・除去を行う場合にあってはアスベスト除去に要する費用相当分) |
| 国の補助額 | 地方公共団体の補助額の1/2以内(かつ全体の1/3以内) |
※申請は原則として各自治体を通して行います。補助内容や条件は各自治体により異なるため、事前の確認が必要です。
神奈川県でも一部地域では、吹き付けアスベスト含有調査に対して補助が受けられる制度が用意されています。補助内容は以下の通りです。
| 対象市町村 | 逗子市、三浦市、伊勢原市、海老名市、座間市、南足柄市、綾瀬市、葉山町、寒川町、 大磯町、二宮町、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町、真鶴町、湯河原町、 愛川町、清川村 |
|---|---|
| 対象となる建築物 | 平成元年以前に建築確認を得て着工された、アスベストを含有しているおそれのある吹付け材が施工されている ① 不特定多数の方が利用する延べ面積 300 ㎡以上 1000 ㎡未満の建築物 ② エレベーターがある建築物(エレベーターの昇降路及び機械室の部分に限る) のいずれかに該当する民間建築物 |
| 補助額 | 1棟当たり25万円。含有調査を1検体のみ行う場合の限度額は16万円。 |
制度の詳細や申請書類は、神奈川県の公式ホームページや各市町村の環境課や建築課などで案内されています。補助制度は年度ごとに変更される場合もあるため、最新情報を必ず確認しながら、活用を検討しましょう。
アスベストは、かつて建築材料として広く使われていましたが、健康への影響から、現在では厳しい規制の対象となっています。
大規模修繕や解体・改修工事を行う際には、アスベストの有無をしっかりと調査し、状況に応じた適切な対応が求められます。
調査は、書類の確認や現地での目視、サンプル分析というステップで進められ、結果によって「除去」「封じ込め」「囲い込み」といった工法が選択されます。
工事の内容によっては、法令に基づいた届出や安産対策も必要です。
費用面については、国や自治体による補助制度を利用できる場合があります。神奈川県でも、アスベスト調査に対する支援制度が用意されていますので、事前に確認しておくと安心です。
アスベストは、見た目で判断がつかないケースも多く、気づかぬうちにリスクを抱えてしまうこともあります。
建物の安全と居住者の健康を守るためにも、できるだけ早い段階で調査を行い、専門家のサポートを受けながら慎重に検討を進めるようにしましょう。